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往診日記DIARY

51.父への贈り物


最期を自宅で迎えたいと希望する日本人は6割を超えるといわれる。しかし、それがかなうのはほんの一握り。約8割の人は病院のベッドが人生最後の場所となる。

中高年の二人の男性が、同じ時期、それぞれ自宅で人生の幕を下ろした。二人に共通しているのは、理由はともあれ「自宅で過ごしたい」という本人の意向とそれを貫き通す意志の強さ。ある意味「頑固」であり、「わがまま」と感じられなくもない。二人にはそれを受け入れてくれる妻がいて、協力し支えてくれる家族の絆があった。

二人ともがんの末期。本人たちも辛いけれど、妻への負担は相当なものだった。介護で眠れない日が続く。私は、家族の休息を兼ねた一時的な入院を提案した。予想通り、当人たちは「うん」と言わない。妻が夫に入院を勧めるかと思いきや、意外にも「家に居たらいいよ」。幸せな亭主たちだと思った。

その家には、その家の歴史がある。妻が、兄弟が、子どもたちがそっと私に教えてくれた。多くの苦難に命がけで家族を守ってくれたお父さん。頑固な所もありながら、親しみやすく頼りになる父親像が浮かび上がる。

患者さん、ご家族と在宅スタッフとの相性も、とてもよかった。気になることがあれば、気軽に訪問看護師や薬剤師に電話で相談。真夜中でもすぐに駆け付けてくれた。誕生日や記念日はみんなで祝った。

さらに、福山医療センター緩和ケアチームのバックアップが光った。「病院で待っとるよ。いつでも戻っておいで」というスタッフの温かな言葉が、自宅で療養する患者さんやご家族にどれだけ大きな支えとなったことか。

もうすぐ「父の日」。二人の父親にとって、家で過ごす最後の時間は家族からの究極の贈り物だったに違いない。「頑固」で「わがまま」ながら、家族にもスタッフにも愛された亭主たち。幸せそうな表情で、旅立っていった。


  


 



画 植田映一 尾道市向島在住

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