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往診日記DIARY

53.介護休暇のすすめ

80歳代の老夫婦二人暮らし。夫は末期がんで寝たきり。妻も腰と膝を痛め、夫のオムツを換えるのに一苦労。典型的な老老介護だ。

初めて往診した時、疲れ果てた表情で額の汗をぬぐう妻の姿が痛々しかった。どう見ても在宅は限界。私が夫に入院を勧めると、二人は顔を見合わせ黙り込んだ。その夜、関東に住む娘から抗議の電話が入る。「先生から父に入院するようもっと強く説得してもらわないと・・・」。

2回目の往診は、娘にも同席してもらった。「お父さん、頼むから病院に入って!!このままでは私も安心して仕事ができない」。娘の懸命な説得に対し、父は「もう病院はこりごり。家に居たいんじゃ〜」と泣きついた。しばらく沈黙が続いた後、妻がポツリと「かわいそうだから家でみようと思う」。静かな口調の中に覚悟のようなものが感じられた。

当然ながら、妻一人では身がもたない。看護師やヘルパーによる訪問サービスを提案。そして、差し出がましいと思いながら、娘に介護休暇をとるよう勧めた。責任感の強い彼女は「職場に迷惑をかけられない。私が休むと会社がまわらない」と難色を示したが、理解ある上司の勧めもあり、何とか2週間のプチ介護休暇を取得することになった。

はじめは介護に消極的だった娘が、いつの間にかスタッフの輪に入り、気が付けば下の世話まで進んで担当するようになっていた。娘がそばにいてくれるおかげで母の負担は軽くなり、気分的にも随分楽になった。

久しぶりに実現した親子水入らずの時間。「一日一日を大切に」と娘。介護休暇に入って八日目の朝、母娘は自宅で父を見送った。

四十九日の法要のあと、娘が訪ねて来てくれた。「父を自宅でみられてほんとに良かったです」。「職場は大丈夫でしたか?」と尋ねると「私がいなくても会社は全然困らなかったみたい」。少し悔しそうな仕草を見せながら、表情は生き生きと輝いていた。


   画 植田映一 尾道市向島在住

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