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往診日記DIARY

59.LINEがつなぐ家族の絆


病院に入院中の40歳代男性。口の中にできたがんが首の方まで広がり、食べたり話したりするのが難しくなった。全身の筋力は衰え、ほぼ寝たきり状態に。主治医から、がんに対する積極的な治療が困難な段階に入ったことを告げられた。彼に残された時間は限られている。「できるだけ自宅で過ごしたい」。彼は11秒を惜しむように退院した。

家で待っていたのは愛する妻と子どもたち、そして一匹の子犬。広いリビングの真ん中に彼のベッドが置かれた。そこにいるだけで、何もしなくても彼は一家の大黒柱。

声を失ってしまった彼の心強い味方はスマートフォンだ。無料通信アプリLINEで「水を飲ませて」「座らせて」「足をマッサージして」「背中をかいて」「オシッコ」。これまでは、鈴で人を呼んで、筆談で意思を伝えるのが定番だった。スマホ世代にとって紙に書くよりこの方がずっと楽で、しかも読みやすい。離れていてもLINEでつながっていることで、家族も安心して外出できる。

愛情や感謝など、これまで夫婦や親子の間でなかなか口にできなかった言葉が、ごく自然にメールに織り込まれた。子どもたちに自分の厳しい病状や予後を伝えたのもLINE。その夜は、家族みんなで泣き明かした。

ある日の往診。リビングで、それぞれ別の方向を向いて、無言でスマホをつつく一家四人。「今どき、どこの家庭も同じ」と冷ややかな目で見ていると、同じタイミングで泣いたり笑ったり、さらに手を叩いたり。そこには、LINEがつなぐ家族の温かい絆があった。

「今朝の味噌汁、一口だったけどとても美味しかった」。「お父さんの顔、今日は少しにやけてたよ」。その日の小さな喜びがLINEに綴られる。

彼は、最後に、家族一人一人にメッセージを残した。妻への感謝、子どもたちへのエール。スマホを開くと、メールがそっと語りかける。これからもずっと、家族を温かく見守ってくれることだろう。 


画 植田映一 尾道市向島在住

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