一人暮らしのおばあちゃん。お喋りが大好きで、サロン通いが何よりの楽しみ。
彼女の姿を見かけなくなって2週間が過ぎた。心配した近所の人が訪ねたところ、持病の腰痛が悪化し立ち上がることすら難しい様子。食事もあまり摂れていないようだ。地域の人たちが交代で話し相手や食事の差し入れなどおばあちゃんのお世話をすることになった。
ホッとしたのも束の間、おばあちゃんの背中に大きな床ずれができた。民生委員から私のクリニックに往診の依頼が入る。訪問看護師や薬剤師、ケアマネなどでチームを組み、点滴や床ずれの処置を始めた。ホームヘルパーに身の回りの援助をお願いした。
徐々に食欲が回復し、1か月ほどで床ずれは小さくなった。なのに、おばあちゃんの表情がさえない。理由を尋ねてみた。おばあちゃんは寂しそうに「最近、サロンの人が来てくれない」。その一言に、私はハッとした。
私たち在宅ケアチームが入ることにより、彼女にとって一番大切な人たちを締め出す結果になってしまった。医療・介護の専門職につないだという安心感や素人が邪魔をしてはいけないという遠慮もあり、近所の人の足が遠のいていったようだ。
民生委員に事情を話し、これまで通り、近所の人にも訪問してもらえることになった。私たち在宅ケアチームと地域住民がいっしょになっておばあちゃんを支えるプロジェクトが始まった。おばあちゃんに笑顔が戻った。暖かくなったら歩いてサロンに行きたい。それが、今の彼女の目標だ。
一人暮らしのお年寄りや高齢者だけの世帯が増えている。最期まで住み慣れた家で暮らしたいと希望する人は少なくない。地域住民と在宅医療・介護を担う専門職とのチームプレーが試される。
「在宅医療は地域づくり」。あらためて、その思いを強くした。
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